リーマンショックと生活保護
10年ほど前のリーマンショックの時、生活保護者の「その他区分」(←病気とか高齢とか母子家庭とかの区分にはまらない人。具体的には若いのに仕事がない人が当時は多かった)が増えたことが話題になりました。年越し派遣村などが話題になっていた時期です。
そのニュースを見て、「仕事がなくて生活保護というなら、そういう人を地方の一次産業担い手不足地域の公営住宅に住まわせて、人手不足の農業や林業などに就いてもらうのはどうか」という話題を、役所で生活保護を担当していた友人に話してみたことがありました。働き先も確保でき、公営住宅などで住居も確保でき、生活保護も一定額を支給すれば生活も立て直せて、よさそうじゃないか、と。
友人は、「人には居住・移転の自由や職業選択の自由という憲法上の権利があって、生活保護を受けるならここに住んでこの仕事をしろと強制するのは難しい」という話をしてくれました。その時は私もその話に納得しました
しかし最近、貧困関係の本で、現在の生活保護受給者の中には、一人暮らしや家庭の維持が能力的に難しい、家庭運営能力に欠ける方が一定数含まれているということが分かりました。
知的障害・知的境界域の方には困難な一人暮らし
IQが75以下(自治体によっては70以下)の場合、知的障害があると判定されます。言い換えれば、IQが75以上あれば、知的障害があるとは認められず、公的な支援は何も得られません。また、発達検査(IQ検査)を受けなければそもそも知的障害があると判定されることもありませんので、知的障害があっても支援につながりません。その結果、行政の支援からこぼれ落ちる人がたくさんいます。
(非行少年には知的障害や知的境界域の子が多くいるのが分かる本)
しかし、IQ75という数値は、実年齢の75%程度の発達状況ということです。知的障害かどうかは18歳までの知能で判定されますから、IQ75と判定されるということは、18歳の時点で発達年齢がその75%、だいたい13歳か14歳くらいの知能であるということになります。
自分に置き換えて考えてみると、いくら稼ぐ力があったとしても、14歳のときに一人暮らしに伴う賃貸契約や電気ガス水道の開設など数々の手続きが出来たとは思えません。
IQ75~84のゾーンを知的境界域と呼びます。このゾーンに該当する場合、知的障害にはあたりませんので、行政からの支援は受けられないのですが、知的には14歳から15歳くらいですから、このゾーンの方が純粋に誰の力も借りずに一人で暮らしていくことは、実際はかなり難しいです。
一人暮らしをするには、各種契約手続きをすることが必要ですし、一定額の収入の中で正しい配分でお金を使って生活していく能力や、掃除洗濯炊事の家事能力も必要です。しかし14歳15歳の能力でこれを一人で問題なく行うことは困難です。
(境界知能について分かりやすいのはこちら)
その結果、小さいころには発覚しなかった知的障害の方や、知的障害域の方の中には、詐欺などの犯罪に巻き込まれたり、だまされたり、よくない人間関係に染まり生活が荒れる、健康管理や清潔が維持できず病気になったりするという人が出てきます。女性であれば性風俗に取り込まれることも多いです。
(貧困女子が陥る困難はこちら)
知的境界域の方は、7~8人に1人いると言われています。発覚していない知的障害の方を合わせるともっとです。そして実際に生活保護が必要なほどの貧困に陥っている方には、このような方が一定数含まれます。
知的障害・知的境界域の方が陥る貧困ビジネス
知的障害域の貧困の方に生活保護費を支給しても、実際は各種手続きや一人暮らしの生活でつまづくことが多いです。
こういった一人暮らしをするには困難を伴う生活保護者を狙って、劣悪な無料低額宿泊所に生活保護者を囲い込んで生活保護費を搾取するような団体もあり、貧困ビジネスと呼ばれています。
(「ほんまでっか」に出演中の門倉貴史さんの貧困ビジネスに関する本です。)
(こちらも生活保護者の困りごとや貧困ビジネスがよくわかります。)
このような方を貧困ビジネスから救い出したり、荒れた生活を立て直させたりするためには、行政ができることはほとんどありません。(自分で選んだ住居を行政が強制的に転居させることは上の居住の自由の問題があり難しい。)
また、知的境界域(もしくは発達検査を受けていない)=障害者でない=普通の人なので、障害のない方に継続的な福祉の支援を提供するには、行政のマンパワーが全く足りません。健常者は、一般的な行政の施策の中で、自力で必要な補助などを受けるべきということになります(生活保護とか、貸付とか、手当など。ほとんどがお金だけの支援です。)。
そして役所には、高齢・障害・子育てと名前がついている課はあっても、普通の人の支援を担当する部署はありません。ですので、知的障害域の方が子どもを産んで子育て支援を、高齢になって高齢者支援を、二次障害として精神障害などが発症したときに障害者支援を受けられることはあっても、通常の健康な状態で行政の支援を受けることはかなり難しいです。
現在この支援の部分はNPOなどの支援団体が担っていることが多いです。が、圧倒的に支援者の数もお金も足りません。
生活困窮者に本当に必要な支援を考える
私は、成人の生活困窮者のうち、生活保護費を受け取っても一人で生きていく力が限りなく低い人に対し、特に生活を支援する方法として、公営集合住宅を準備して住居を提供し、自立支援として掃除や規則正しい生活などの生活指導を行い、農業などの雇用先を提供し、生活保護費として不足する生活費を支給して経済支援を行うという、一元的に行う支援体制があってもいいのではないか、むしろ今はそういった支援が必要なのではないかと考えています。
公営住宅で、物理的に距離が近いところに住んでいれば、マンパワーが足りなくても移動時間が短縮でき支援者が支援しやすくなるほか、集会所を使ってグループ単位で指導を行うなど効率的な支援が可能です。
雇用先があれば金銭的な自立以外にも、職業訓練も行うことができます。就労で得たお金があれば、生活保護費の削減も可能です。
本人も、生活保護費としてお金はもらえるけれども、住む場所も仕事もない、一人暮らしの方法も分からないというような、一人きりの不安な状況から抜け出せます。
就労や運動により、健康を損なうことも未然に防ぐことができます。
生活困窮者には、生活困窮に陥った様々な原因や理由があります。
それが本人の力ではどうしようもないような知的な能力に起因する場合、その知的な能力を補うような支援が必要になります。しかし行政が行う支援には限りがありますから、提供可能な範囲の支援方法の中で、受け手に必要な支援を提供できるよう、今までの考え方を変えることも必要なのではないでしょうか。
一番大切なことは、支援を受ける本人の意思を尊重しながら、できる範囲の支援を探ることです。支援を受ける本人を直接知らない外部の者が、人権だ自由だと声高に主張すると、結局は生活困窮者本人に必要な支援が届かなくなる恐れがあります。
限りある支援の資源の中で、困っている人を助けるためには、従来の方法とは異なる方法を作り出す視点も必要な時期にきているように思います。
それではまた。
【合わせて読みたい】
www.workingmother-rikumiler.com
www.workingmother-rikumiler.com
www.workingmother-rikumiler.com
www.workingmother-rikumiler.com
お役に立てましたら、ポチっとお願いします。ブログ村に遷移します