この本は、東京大学を卒業し新聞社に入社した筆者の中野円佳さんが、妊娠後に感じた「悔しさ」とその要因を見つけるため、自らアカデミックな調査をするべく、妊娠中に大学院に入学し、修士論文としてまとめた論文を、一般向けに加筆修正したものです。
この本の問いは、
「男性と同等に仕事をバリバリしようとやる気に燃えていた女性が、ずっと働き続けるつもりで就職していたのに、結婚や出産をして結局会社を辞めていくのはなぜなのか」
ということ。
私がこの本を読んだのは、ちょうど第一子の産休に入ってすぐの時期でした。
結婚・妊娠後、漠然とかかえていた出産に対する不安、というか、子どもを持ちながら働くことになった自分の将来に対する不安について、「漠然さ」を明確にしてくれて、不安はやっぱり不安なんだな、でもこれは社会の問題であり、かつ自分に課せられた試練でもあり、自分で解決していくしかないんだな、と覚悟を決めさせてくれた本でした。
この本は、筆者が15人の育休世代の母親をインタビューし、その内容を分析することで進んでいきます。
この本を読む前にも、私は女性活躍推進系の本や育休制度の本をたくさん読んでいたほうだと思いますが、この本がとにかくしっくりきました。いわゆる腑に落ちたというやつです。
その理由は、筆者が育休世代のジレンマを体感した当事者であり、その当事者である筆者が、自分が直接体感した問題を研究対象としてまとめた本だったからだと思います。
それまで読んでいた本は、当事者が当事者自身や取材対象者の取材内容をまとめたコラム的な本か、当事者ではない研究者が、研究対象として女性活躍推進や育休制度問題を選択して研究内容をまとめた本が多かったです。
コラム的な本は、共感はできるものの深い理解につながるという感じにならず、研究者の書いた本は、研究結果は分かるものの、当事者の感じている微妙な心理にビビットに適合するという点で、少し物足りなく感じていました。
その点、この「育休世代のジレンマ」は、筆者のインタビューの視点や、分析の分類分けとその後の分析が、「そう、私はそこが知りたかったのです!」というやり方であることが多いのです。
またこの本は、インタビュー対象者に高学歴総合職女性を選んでいるため、インタビューの回答も、私が言葉にできなかったもやもやしたものをうまく言語化されており、「そうそう、わたしもそう思ってたんですよ」という内容が多かったです。
かなりボリュームがあって読み応えがあり、また、修士論文の書き下ろしなので、集中して読まないと頭の理解と文字を追う目がずれていってしまう難しさがありますが、「出産後の不安が具現化できない」「出産後どうなるか予想がつかない」「育休から復帰したけどもやもやしたものを抱えている」「将来ワーキングマザーになりたいので事前に問題点を把握したい」という女性の方におすすめです。
加えて、「彼女・奥さんに働き続けて欲しい(特に自分と同じくらい稼ぎ続けて欲しい)」と思う男性にもおすすめです。男性が読むには、耳が痛い内容もたくさんあると思いますが、この本は、いわゆる高学歴総合職女性の出産後の仕事継続を阻む問題点がよく表れていますので、本当におすすめです。
そして、「せっかく採用して育てて来た総合職女性社員が、妊娠出産を機に退職してしまう状況を改善したい」と考えている全ての企業の方に、是非読んでいただきたいです。会社が考えていた退職理由と女性社員の現実が違うことが分かります。
現在中野円佳さんは、海外移住され、引き続きジャーナリストとして、特に育児の分野を中心に、精力的に取材・執筆活動をされています。
そして、先日、本ブログの更新記事をTwitterでツイートしたところ、なんと中野円佳さんにリツイートをしていただきました。
ちなみにリツイートしていただいた記事はこちらです。
www.workingmother-rikumiler.com
ミーハーの私は大変うれしく、すぐに夫に報告しました。
夫は私がブログをしていることもTwitterをしていることも知らなかったので、きょとんとしていましたが、育休世代のジレンマを未読だったので、リビングの机に置いておきました。(読むかどうかは夫の判断にまかせました)
ブログを書いていてよかったな、と思った出来事でした。
というわけで、今日は、中野円佳さんの本の紹介と、私の喜びの記事でした。
中野さん、本当にありがとうございました。
こちらも面白いです。
こちらのエントリーでも中野さんの本について言及していました。
www.workingmother-rikumiler.com
「育休世代のジレンマ」の中でも、参考文献としてたくさん出てくる、東京大学の入学式で印象深い祝辞を述べられた上野千鶴子さん著の本も、面白いのでおすすめです。
お役に立てましたら、ポチっとお願いします。ブログ村に遷移します